照明

照明の魔法

照明～役者をその気にさせる魔法～

舞台を創るうえで、なくてはならないもののひとつに、照明があります。

場面ごとの雰囲気を盛り上げてくれ、
ときには登場人物の心の内まで描き出してくれる照明。
また、ダンスなど楽しい場面では、美しく彩ってくれる照明。

その場面にふさわしく、大いに効果を上げてくれる明かりであって、
そのオン・オフのタイミング、スピードが芝居の呼吸とばっちり合うと、
観ているお客さんは大変気持ちよいはずです。
あまりに気持ちよくって自然に観れてしまい、
照明の素晴らしさに気づかなかったりするかもしれません。
それくらい、酔いしれてしまうものなんです。

しかし、気持ちよいのは役者の方も同じです。
むしろ、役者の方が酔いしれているかもしれません。

だってだって、舞台の上に立ってスポットライトを当ててもらったときの
高揚感といったら…、素敵です！！
ダンスをしているときに、ミラーボールが回って、
カラフルな照明が自分たちを包んでくれたときのワクワク感…、素敵です！！
しんみりした場面、感動的な場面で、
実に美しい照明をもらったときの心が澄んでいくような感じ…素敵です！！

本番でどのような明かりを当ててもらえるのかというのは、
本番前日（早くてもせいぜい数日前）に劇場入りをし、
照明装置のセッティングが完了して、初めて見ることができるのです。
稽古場では、蛍光灯の下で芝居をやってますから、
本番の明かり、本格的な照明を当ててもらえると、
それだけで無条件にうれしくなってしまうのです。

そして、芝居の中の感情が照明によって増幅され、
良い具合に芝居にフィードバックされて、
より一層、芝居に厚みがでてきます。
正に素敵な魔法です。

本当に素敵な魔法なんですけれど、
その代わり、役者としては苦労することもあります。
それは、舞台上での立ち位置です。

照明さんが手で動かしながら役者の動きを追ってくれるスポットライトで
あるならば、少々、立つ位置が違ってしまっても大丈夫なんですけどね
（とはいっても、全然違うところに立ってしまっては、
照明さんをびっくりさせてしまいますけど…）。
しかし、サスペンションライト（通称サス）になると、そうはいきません。

サスは、天井のバトンに固定され、向きも調整されています。
つまり、どこからどの角度で床のどこに明かりが当たるかが
決まっているということです。
ですから、サス明かりの中で台詞をしゃべらなくてはいけない場合、
役者は、きちんとその場所に立たなければなりません。

明かりが当たっているところに芝居の途中で移動して台詞をしゃべる、
というのならまあ良いのですが、
役者が立つのと照明が当たるのとが同時だったりすると、大変です。
明かりが入った瞬間、「やばっ、ずれた！」と思ったら、
うまくごまかして移動しないとだめです。
微妙に位置がずれていると、顔に影ができたりして
きれいに見えないからです。
せっかくなんだから、きれいに見せたいですものね。

もうひとつの苦労は、暗転です。

場面が転換するときに、真っ暗になります。これが暗転です。
この暗闇の中で、役者は舞台上から袖に引っ込んだり、
逆に次の場面にスタンバイする人が出てきて定位置についたりしています。

蓄光テープ（明るいときに光を蓄えていて暗くなると光るテープ）を
目印にするところに貼っておき、暗くなったらそこを目指して突進（？）します。
気分は正に突進です。
なぜ突進かといいますと、暗転明けに明かりが入ったとき、
舞台上にいてはいけないのに取り残されていた～、
なんてことになってしまうのはイヤだからです。
だって、みっともないでしょ？もう、必死です！

何秒くらいあればスタンバイできるかというのも、
劇場での場当たりで照明さんと一緒に決めていきます。
それでも、本番では手間取ってしまうということが、ままあります。
照明さんは、本番のとき、暗転中の気配で、
「スタンバイできてなさそうだぞ。｣と感じとり、
暗転時間をほんの少しのばしてくれるという、
心憎いことをやってくださります。

照明は、役者にとって魔法です。
そして、照明さんは、魔法使いです。

照明ライトからの光は気持ちのいいシャワー♪　